車両火災の判例

2014年 2月 東京地裁にて「トラック火災は原告(ユーザ)の使用不適切により発生したものである。原告の請求を棄却する」との判決が出ました。原告はA保険会社、被告はB 自動車会社です。判断の主要骨子は「取扱い説明書にエンジンオイル交換は 3 万 km 毎と書いてあるにも関わらず火災事故直前のオイル交換は 4 万9320km および 5 万 7904km であった。エンジンオイルにスラッジが形成され、それによりコンロッドが焼き付き火災に至った」としています。メーカの主張を全面的に認めたものとなっています。
確かにエンジンオイルはマニアル通りの頻度で交換するのがエンジンにとって理想的です。
けれども、車のエンジンは世界中に販売します。オイルも含め熱や湿度など世界で最も厳しい使い方を基本に開発されるのが一般的です。日本の良好な道路事情でこの程度余分に走ったのが原因で焼き付くようなことは、まずありません。本当にそうであれば世界で火災が頻発してしまいます。オイル通路を塞ぐような大量のスラッジも発生しません。あるとすれば火災によるオイルの炭化物残渣が大半です。ところが裁判となると技術論議とは事情が異なってくるようです。最も中心となる判断基準は「規則に少しでも外れた使い方をしたかどうか」です。
製品は必ずゆとりのある安全率を持っています。技術職ではない裁判所が結論を出すため事情は理解しますが、法廷でそこばかりを突く法律家テクニックの応酬になりかねません。船舶事故を扱う「海難審判」のように専門的な問題の結論は中立の立場にある専門家が判断を下すシステムが必要と痛感しています。

筆者

藤田 泰正
技術士 機械部門・総合技術監理部門