エスカレータ事故
事実
2009 年、東京都の商業ビルにおいて、2F吹き抜け部の下りエスカレータから転落し死亡。
判決
原告はハンドレールの粘着性(摩擦係数)が異常に高く、手すり折返し部の高さが低いため、被害者が乗り上げて転落したと主張。しかし東京地裁は被害者の異常な使用による事故であり、製造者、設置者いずれも無罪とした。控訴審、上告審もこれを維持。
工学的な評価
この判決は安全工学、とくに機械安全の現在の標準を無視した全く誤った判断である。下りエスカレータの乗り込み部のハンドレールの形状は図のようになっているが、事故機においては傾斜部が設けられているためにハンドレール高さが低くなっている。ハンドレールが低いため、被害者は後ろ向きにエスカレータに接近してハンドレールにお尻を乗せる形で乗り上げてしまったのである。私はある協力者を得て実験を行い、事故と同じ環境でハンドレールにお尻を接触させれば、ハンドレールが高い粘着性を持たなくても、いとも簡単に乗り上げてしまうことを確認した。裁判所は被害者が後ろ向きにハンドレールに接触した行為を異常と断定しているが、このような行為が死に至る可能性があるとは誰も認識していない。製造者が予見するべき使用形態であり、これを見逃して設計した当該エスカレータには欠陥があると断定せざるを得ない。
(参考資料、日経BP社、日経ものづくり2015-10)
著者
技術士 機械部門・総合技術監理部門