イシガキダイ 食中毒
本件は、サンゴ礁に生息する魚類の摂取により起こる致死率も低い食中毒、シガテラ中毒について、料理店のイシガキダイの調理行為が「加工」に該当し、「開発危険の抗弁」*を否定した事例として知られている。この事件 について検証したい。(*最高水準の知見による開発の免責)
原審判決は、①千葉県沖で捕獲されたヒラマサにより発症した事例が報告されていること、②沖縄県においてはイシガキダイによるシガテラ中毒が数件報告されていることから、開発危険の抗弁の成立を否定している。これらに対し、以下の技術的な検討の余地が推察される。
①ヒラマサは東シナ海から千葉沖まで回遊する性質を持つ。事例のヒラマサは南方で毒化したものが銚子沖にまで回遊したものと考えられている。一方、イシガキダイはこのような広範囲に回遊する性質を持たない。ヒラマサの中毒事例をもってイシガキダイが毒化されていたと知りうるかは検討の余地がある。
②シガテラ中毒は、歴史的にはサンゴ礁を住処としている魚を食べると発症することがある食中毒として日本でも第二次世界大戦中に南方の島々の魚の中毒が研究された。魚介類の毒化機構は1977 年に日本の研究チームにより渦鞭毛藻類による物質が原因であることを確認し、生体濃縮で毒素を蓄積した魚介類の摂食が原因であることが明らかになった。従来、伊豆半島が北限とされていたサンゴが、千葉沖でも確認されたと2010 年7 月に新聞報道されている。
1999 年の事故当時に、沖縄県のイシガキダイ中毒事例をもって、千葉県沖で捕獲されたイシガキダイの毒化が知りえたかについても検討の余地がある。
魚種による行動の違いや生息環境等の観点から技術的検討の余地が覗えた事案である。
筆者
技術士 農業部門